痒み・痛みが眠りを妨げ神経を逆なでするむずむず脚症候群
病気の病名は、「伝統的な呼び方が継承されているもの」「発見者の名前が付いているもの」「聞いただけでどのような症状が起こるのかが分かるもの」「実態に即しているとは言えないもの」「抽象的でわからないもの」など多種多様です。
そのため、軽い症状の病気でも命に関わりそうな印象を持ったり、日常生活が困難になる重い病気でも名称があやふやなので仮病か何かと思われてしまったりすることは良くある話です。
そういった病名のために周囲の理解を得にくい病気の一つである「むずむず脚症候群」とはどのような病気なのでしょうか?
下肢に痒み・痛みが起きて落ち着かないむずむず脚症候群
むずむず脚症候群は、下肢を中心としてむずむずとした痒みや痛みが慢性的に発生する病気です。下肢だけでなく腕や背中にもこの痒みや痛みは発生します。
痒みや痛みは寝ている時や動いていない時に起こりやすく、じっとしていられないくらいに続きます。その為患者は横になって眠られないくらいに神経を消耗してしまうことがしばしばです。
なぜこんな名前が付いたのか?
むずむず脚症候群という名称は、英語のrestless legs syndromeを直訳したものです。「むずむず」という響きが脱力感というか深刻さが伝わってこない語感のためか、認知度も低く周囲からの理解が得られにくい病気となっています。
また、別名として「下肢静止不能症候群」というものがありますが、アンデルセン童話の「赤い靴」のように本人の意思とは無関係に動きそうなイメージがある別名といえます。
睡眠不足から精神を蝕むことも
むずむず脚症候群は、「脚がむずむずするだけの病気」と思われがちですが、幾らかきむしってもその痒み・痛みは治まりません。むしろ痒みや痛みが骨の周りから湧いてくるような感じになってしまうくらいです。
背中や小鼻の痒みでも掻かないでいればすっきりしない不快感が続くのですから、その不快感たるや筆舌に尽くしがたいものです。
むずむず脚症候群の患者は、痒み・痛みが起こるたびに眠れない思いをします。症状は昼よりも夜に出やすくなるといわれていて、うかうか眠ることさえできなくなるほどです。
眠られないということは想像している以上に精神に悪影響を及ぼすものです。寝ている間に脳は一日の記憶を整理しているといわれていて、十分な睡眠がとれないと頭の中が整理されず混乱してしまうのです。
その為、むずむず脚症候群に悩まされている患者は不眠からうつ病を併発してしまうことがあるのです。
むずむず脚症候群の原因は?
むずむず脚症候群の発症メカニズムは完全に解明されてはいないのですが、現時点では神経伝達物質であるドーパミンの分泌異常に起因するという論説が支配的です。
ドーパミンは脳内快楽物質とも呼ばれ、喜楽の感情に関連して分泌される脳内物質で学習などにも関わっています。このドーパミンの分泌量が何らかの原因で減少すると下肢への神経伝達に支障が生じて、痒みや痛みが神経の誤作動で発生するというわけです。
ドーパミンの分泌には鉄分が必要とされるため、女性に多くみられる鉄欠乏性貧血も発症の原因と考えられています。
むずむず脚症候群の治療は?
むずむず脚症候群の治療は、症状を悪化させるカフェイン・アルコールの摂取や抗うつ薬の服用を避けること、脚のマッサージ、ドーパミンを分泌する神経を活発にさせる薬を服用することによって行われます。
しかし、むずむず脚症候群は坐骨神経痛や末梢神経障害などの病気と間違われやすく、適切な治療を受けられないまま症状が進行してしまうケースがたびたびあるのが問題です。
ドーパミン受容体作動薬など、ドーパミン神経の機能を向上させる薬を投与すれば症状は軽快するのですが、ドーパミン神経に作用する薬は効果が強すぎて処方しにくいのが難点の一つです。